▼ ジョエル・コーエン『バートン・フィンク』 (91 米)


《あんたは旅人だ。そして俺はここに住んでいる。旅人のあんたがおれのところにやってきて、うるさいと文句を言うのか。》
 出てくる人間は片っ端から変。一癖も二癖も867癖もありそうなんばっかり。その連中がなにもかみあうこともない。さらに、壁から廊下から、磨かれた靴、血を吸う蚊、そしてタイプライターの目の前にかけられた額の写真、散りばめるだけ散りばめられたアイテムのなにひとつもかみあうことのない不毛さ、不条理さがたまんない。それがまたとびっきりの映像でつきつけられるんだもん。
 暑苦しさがそのまんま映像から抜け出して伝わってくる。壁紙がむぅーっとした熱気で剥がれていくあたりずばり具象でしょう。そしてとどのつまりが、ジョン・グッドマンの廊下を火とともに駆け抜けるシーン―このシーンは圧巻の極み。そう、ことしの夏の真っ盛り、そう8月の灼熱地獄WEEKに見なくてよかった、と思う。めらめら燃え上がる特異性はきっと苦しかったはず。
 ヒトは相対するヒトに整合性を求めようとする。自分でも説明なんてつかないんだって。

CinemaScape ★★★★★ 


2001年08月30日(木)