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 ▼ 石井輝男『ねじ式』 (98 日)


 つげの漫画を映画化するっていうのはやっぱり大変なことなんだなぁとつくづく思う。それとやっぱりボクにとってはつげの漫画のイメージが強烈すぎる、染付いてしまってるので、これまでずっと避けてきた。『ゲンセンカン主人』しかり、『無能の人』しかり。それでも避けてばかりいるのもアレだし、アレってどれなんかようわかりませんが、たまたま目の前にあったのが『ねじ式』だっただけ。
 『ゲンセンカン主人』(93)にしたってそうみたいだけど、この『ねじ式』にしても、あまりに原作に忠実すぎるってところがある。崩しようがないといえばないわけだし、いくつかをリミックスさせる方法もあるかもしれないけれど、石井監督自身が
「大変におそれ多いことなんですが、どこまでできるかはともかく、暴走せずに許される範囲でぶつかって挑戦する気持でやってみたいと思ってるんです。(中略)つげさんの作品は、コマが計算されつくされて描かれているでしょう。ライティングも逆光線はきっちり描かれているんで、僕のほうはそんなにいじくれないですよ。(中略)だからぎりぎりなものが原作としてあるんだから、変な付け加えはよくないと思ってるんです。」(『夜行』第18号)
 と言う。
 これてすっと読んでたら、とくにつげの原作を読んだこともない人が読んだら、へぇーそんなにすごいのかと思ってしまうでしょ。原作のつげってどんな人? あたし浅野忠信が出てるからって見ようと思うのに、って人ははじめからやめときましょう。吐きます。あら、話がずれた(-.-;)
 いや、ボクの思うのは石井輝男監督って人はすごい人だなぁと思うの。1937年生まれのつげ、あ、つげさんです(^_^ゞ そのつげさんより一回りも年上の1924年生まれ。しかもキャリア的にはすごい監督 ― 石井監督だと意識もせずにその昔にオールナイトで『網走番外地』や、『徳川女刑罰史』に夢中になってたんだけど、高倉健を「健ちゃんねえ、彼も若かったですねえ。今から見たら子どもみたいな顔をしていましたね」言ってのけるほど ― そんな石井監督をして上に揚げた発言をさせる。これって、つげ漫画のすごさというのもあるだろうけれど、それ以上に石井監督の凄さを感じてしまう。だから文句や注文はあるんだよ、でも文句なんてとても言えません。
 それと、この『ねじ式』に賭ける石井監督の執念のようなものが表れていると思う。実は『ゲンセンカン主人』もこの『ねじ式』と同様に、4話のいちおうオムニバス形式らしいのだが、つまり『李さん一家』、『紅い花』、『ゲンセンカン主人』、『池袋百点会』の4話。ところがこの原案にはなんと『ねじ式』が上がっていたという。な、なんと贅沢な(^_^ゞ ところがクランクイン直前に、『ねじ式』が外されてしまったといういわく付きなのであった。思うに、それって正解だったのかも。腹8分目というけれど、『ねじ式』も加わった5話だと、もうおなか一杯になりすぎて死んでしまうでしょ。
 はい、ここまで前置きみたいなもんです。その石井監督のあまりに思い入れの強い『ねじ式』なのであります。
 で、いきなりやってくれます。がちーんと一発、褌の女の尻がこっちに向けられたときには何が始まるんだと、えぇーーっ(@_@;) まさにブレヒトのV効果。ところが意外と静かに始まるのだった。
 「私は、映画化するのであれば、『別離』のほうを映画にしてほしかった。映画の『無能の人』の中に『別離』が取り入れなかったのは残念でしたね。」(『夜行』第18号)と菅野修がつげさんとの対談でも言っていたその『別離』が映画になった。これで一気につげさんの世界にぐいっと引っ張り込まれる。「ボクの場合、やはり原作のイメージは大事ですから、カメラの前でガタガタ震えちゃうのは困るけれど、多少演技力がなくたって普通に歩けるんならいい」(同) と、普通以上に歩ける浅野忠信を普通に歩かせてしまった。感情を殺したボソボソとしたしゃべり、演技をするんでない演技がいい。かの人が「霊界!」と言いだしやしないかと冷や冷やしましたがね。。。
 「今にも消えてしまいそう」で消えてしまわない、消えてしまえない、つげワールドは、次に『もっきり屋の少女』の前に現れる。ここのつぐみ、こういうタイプむちゃ好きなのね、ボク。杉作J太郎、むかつく。つぐみの乳首、つまみやがって。んがぁ〜〜っ。ちょっとだけ文句言わせてね、もっきり屋の提灯、いかにもさっき作りましたって、もっと汚しかけてくれい。「頑張れ、チヨジ」と叫びながら、酔っ払いのチキやんはN浦へ、をっと、チキやんでなかった(^_^ゞ 『網走番外地』だぜ、『やなぎや主人』だぜぃ。これです、これ。『ねじ式』が先の『ゲンセンカン』に入ってたら、ひょっとしてこの世になかったかもしれない。もうこの話、むちゃくちゃ好きで、この『ねじ式』でもベストと言い切ってしまいますよ。あ、非のうちどころがないとはこのこと。網走をイメージさせるのに、石井監督をおいて他にないでしょ。いやぁ、ほんとこの話は、最初から最後まで好きなんだわ。
 そして、頭上にヒコーキも飛ばずに、メメクラゲが襲ってくるのだった。やっぱ、清川虹子だねぇ。すごい存在感。完全に浅野忠信を食ってしまっております。が、あれは清川虹子をおいてほかにないでしょ。『ねじ式』はつげファンそれぞれに思い入れが強いし、ほとんど話を覚え込んでしまってるから、うんうん、それで次はどういうふうになるんだ、という調子で見るわけでしょ。逆に、『ねじ式』って何って人には、原作そのものがシュールだから、なんなの、これ?となってしまうわけで、それでも何年か越しに『ねじ式』に賭けた石井監督に敬意を表しておきます。

  ★★★★☆  

 


2001年12月08日(土)
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