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■ ▼ ベルナルド・ベルトルッチ『シャンドライの恋』 (98 伊)
ベルトルッチの映像は『暗殺の森』や『ラスト・エンペラー』に限らず、びっくりするくらい美しい。映画はこう撮るんだよと言わんばかり。 当然のことながら、この『シャンドライの恋』でもため息の出る映像の洪水。らせん階段の構図の美しさなんてのは言わずもがな。たとえば「私の夫を刑務所から出して」と叫んだ直後、らせん階段を背にドアのところに立つシャンドライの構図は完璧でしょ。そこからシャンドライをズームアップしていくのに手持ちのカメラを使うなんてのは心憎すぎってもの。ついでにこのとき泣き叫ぶシャンドライ(サンディ・ニュートン)はそのあまりに涎を垂らしています。 赤をベースにした色調で、その中でとりわけ赤のソファだったり、赤いセーターだったり、こういう赤というのはいかにもイタリアらしい。そして光の使い方がこれまたお手本のよう。例えば、ベッドの下でほこりがきらきら光ったり、さらにはキンスキー(デビッド・シューリス)の前髪に照てられた光がひどくキンスキーの心を表現してたり。あるいは光が作りだすシャドーであったり、シルエットであったり。 と、まぁこれだけベタに褒めちぎるのも珍しいんだけれど、さにあらず、過剰すぎると、どうしてもっと素に表現できないのかなんてへそ曲がりでしょうか。たしかに困るんだよなぁ。美しすぎるというのも。いくら美味しいとはいえど、ビフテキばかり食べてられないのだよ。だから、良かったぁーと思うのと同時にどこかに突き放された気がする。 それはそれとして、これにヘタな小細工がどこっと盛り込まれたのなら、ほんとノーサンキューになってしまうものが、この『シャンドライの恋』においてはとてもストレート。話のほとんどすべてがかのらせん階段のキンスキーのアパートで進む。閉鎖性。他の空間、例えばシャイドライが通う医学部の教室であってもその空間から単に伸び出た(地下鉄でつながれた)ひとつながりの空間にしか感じられない。唯一、他の空間、外の空間として現れるのはアフリカの大地なのだ。 もうひとつ、ことばの少なさ(字幕の少なさ―字幕にしなければならないことば) これも切り詰められた空間と同様に極力切り詰められる。極端なことを言えば、字幕なんてなくてもわかる。どこかわからない国のことばで語られてもわかってしまう。話しことばとして表されるのが極端に少ない。抑えられているのだ。 話しことばは極力抑えられなければならなかった。それはキンスキーはピアノということばで語りかけ、シャイドライはアフリカ音楽で語っていたから。そしてベルトルッチは光で語っているから。
ボクが一番好きなシーンは、キンスキーのアパルトメントを右に臨む、地下鉄への入り口が正面に見えるシーン―人通りの少ない朝だね。朝の光がわけもなく優しい。
Besieged 監督 ベルナルド・ベルトルッチ 脚本 ベルナルド・ベルトルッチ クレア・ペプロー 原作 ジェイムズ・ラスダン 撮影 ファビオ・チェンケッティ 音楽 アレッシオ・ブラド 出演 サンディ・ニュートン デビッド・シューリス クラウディオ・サンタマリア ジョン・C・オイワン マッシモ・デ・ロッシ シリル・ヌリ ポール・オスル
★★★★☆
2002年02月09日(土)
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