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 ▼ クレール・ドゥニ『パリ、18区、夜』。(94 仏)


 こういうクレール・ドゥニの淡々とした語り口が好き。何を訴えるでもなく、はらはらどきどきわくわくさせられる映画でもなんでもないのに。もちろん流行りの「癒し」なんてもんでもないし(笑)、癒されません(断言)
 かつてもう何十年も前に東北だとかから集団就職だとか言って東京に出てきた若者、「根っ子の会」なんてのもあった。東京に出てくると何とかなるという幻想に彼らが挫折していく。そのような映画が何本も作られていた。

 リトアニアからパリにやってきたダイガ(カテリーナ・ゴルベワ)、「手の届くところになんでもある・・・・楽園」マルチニック(西インド諸島仏領)から一族で来たテオ(アレックス・デスカス)、カミーユ(リシャール・クルセ)の兄弟の挫折。
 その彼らが「"ムーランルージュ"で有名な歓楽街で、人生を楽しむ街」パリ18区で出会う。出会うといっても彼らの間にラブロマンスが湧き起こるわけでもなく、たまたまダイガが居候することになった安ホテルに住んでいたのがカミーユ。ただ同じ空間に生活するようになったというだけで、二人の間に最後まで接点はない。
 なんて書くとどこがおもろいねんと思うだろ。いやおもろいことなどなんもないねん。
 これがね、昭和30年代日本映画のように、田舎から東京に出てきた若者が一生懸命生きようとするけれど、あえなく挫折していくというのは、その一生懸命生きようという点でいやらしいのだが、この『パリ、18区、夜。』には一生懸命生きよう、頑張れよというのがまるでない。適当に生きてみてダメだったわって、話にならないんだよね。ところがそれがいいのだ(笑) 映画のマイノリティー。。。。。 マイノリティーな生き方、実は描かれることはマイノリティーであっても現実にはほとんど誰もがそうでしかない。その一方でフランスの婆ちゃんたちの空手道場が描かれていたり、また婆ちゃんの若いころへの思い入れだったり、プロコルハルムにはじんと来たね(苦笑)。元来描こうとしないところから、パリという都会、人間を描いた。そいう意味でこの映画はすごく興味深いものがある。
 その上でひとつ書いておくと、テオはクラブバンドのバイオリニストだが、当たり前のことながらそういうのって銭にならないんだよね。だからマルチニックに帰りたがっている。ところがテオとモナ(ベアトリス・ダル)との間に子どもがいて、この子がまためっちゃ可愛い。それはいいとして、モナはマルチニックになど行きたくない。で、子どもの養育権を巡ってほとんど離婚状態。ありがちでしょ。離婚状態といっても二人の間に愛情がなくなっているわけでく、アパートの屋上で朝まで川の字で寝るところなんてほんといいんだよ。それでモナがテオにステージ用の靴を買ってやるのだけれど、マルチニックのことでまたケンカ。モナは出ていってしまう。久しぶりのステージで、テオは一人でその靴を履いていく。これもね、描かれ方がごくふつう。そういうのをやたら強調したがる映画だらけなのに、このクレール・ドゥニのセンスの良さったらない。だからこそボク的には好きな映画。音楽だってクールでいいしね、やたら強調したがる映画に食傷気味の人にお薦め。(実はきのうアップしたベアトルッチもいい加減食傷気味なんだ)
 上に引用した「パリ18区は〜〜」だとか、「マルチニックは〜〜」の提示の仕方もいいよ。どうぞ自分で観て確かめて下さい。

J'ai Pas Sommeil
監督 クレール・ドゥニ
脚本 クレール・ドゥニ / ジャン・ポール・ファルジョー
撮影 アニエス・ゴダール
音楽 ジャン・ルイ・ミュラ
出演 カテリーナ・ゴルベワ / リシャール・クルセ / バンサン・デュポン / アレックス・デスカス / ベアトリス・ダル
★★★★☆



2002年02月10日(日)
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