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 ▼ ジャン・ルノワール『獣人』(38 仏)


 まずはなんと言っても、SL-蒸気機関車の描写のすごいの、なんのって。鉄の塊、思いきりのエネルギッシュというか、エネルギーのかたまり、人間と対極にあるSLの絵をがんがん見せつけておくんだからたまったもんじゃない。機関室を真後ろから撮った絵が何度か出てくるのだけれど、飛行機の操縦室とはまた違う。というのは機関室の正面に風景が写らなくて、両サイドに流れていく。さなが舞台の背景という感じ。それが真っ黒で重くて冷徹というか、やっぱりマシンなんだね。60年以上も前なんだから、とにかくその当時にすると、まさにマシンそのもの。とにかく鉄っちゃん(鉄道ヲタク)には是非見て欲しい。このSLの姿を見るだけで惚れ惚れする。いやどの角度から見ても美しいよ。そしてフランスの田園風景が流れていくわけだから、それで物語の舞台ががっちりかたまった。こういう舞台作りを見るにつけ、やっぱり巨匠なのだ。
 蛇足だけれど、鉄道の駅構内の線路がいくつもいくつも分岐したり交差したりしてるのを俯瞰した絵がふっとはさまれるんだけれど、むちゃくちゃ幾何学的で美しい。
 はい、お待たせしました。ジャン・ギャバン。若いっ! ボクの父親なんかがことあるごとに口に出していたジャン・ギャバンの若かりし姿。淡々としています。ぐっと抑えた演技なんだよなぁ。だからよけいに冴えるのだ。
 女を抱こうとするとその女を殺したくなるという遺伝による精神病に冒されている機関士ジャックがジャン・ギャバン。一方、同僚の駅助役ルポ(フェルナン・ルドゥ)の妻セヴリーヌ(シモーヌ・シモン)は、出生の秘密を抱え、夫婦関係も危しい。そこで嫉妬からルポは妻セヴリーヌにも手伝わせて自分の上役を汽車の客室で殺してしまうのだが、たまたまその事件に偶然居合わせたジャックはそのことを秘密にしてしまう。そんなところからジャックとセヴリーヌは不倫な関係に陥り、夫ルポを殺害してしまうことを企む。
 と、話はぐぐぐっとサスペンスに突入していく。ここでもはらはらどきどきをかきたてるのは蒸気機関車。ひたすらにつづく鉄路が流れていく先に何が起こるんだろうとほんとはらはらさせられるんだから。
 ここでSLの冷徹完璧性に対して、ジャン・ギャバンとシモーヌ・シモンの描写はすごく甘い。フランス映画の典型ちゃうかいなというくらいにスゥィート。機械に対する人間の曖昧さ、計算のできない不正確さが、そうした仕掛けでどっと前に出てくる。やっぱり巨匠の描きたいのは人間だったんだと。
 とにかく汽車を継の駅まで動かしてくれないか。

La Bete Humaine
監督・脚本 ジャン・ルノワール
原作 エミール・ゾラ
撮影 クルト・クラン
音楽 ジョセフ・コスマ
出演 ジャン・ギャバン / シモーヌ・シモン / ジュリアン・キャレット / フェルナン・ルドゥー
★★★★☆




2002年03月06日(水)
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