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 ▼ 黒沢清『ニンゲン合格』 (98 日)


 14歳から10年間もの間、昏睡状態にあったのなら、まず肉体的に成長するものだろうか、少なくとも筋肉はいっさいないはずで、仮に筋肉とは言えない筋肉を運動することが可能な筋肉にするのに、少しくらいのリハビリで可能なはずがない。。。なんて、野暮なことは考えないの。とにかく少なくとも物理的にありえそうもないことを前提にして、その上で成り立っている話であることは、暗黙のうちに受け入れなければ始まらないね。
 さてそうした前提の上で、さらに黒沢清が用意した吉井豊(西島秀俊)をとりまく状況というのも、想像を絶する過酷なもの。その10年の間に父(菅田俊)と母(リリィ)は離婚、しかも父は禁治産者になっていた。妹(麻生久美子)は男(哀川翔)をつくっている。豊を退院させ、ひきとったのは誰もいなくなった吉井家に住み産業廃棄物を不法に集めることを生業とする藤森(役所広司)
 すべてにおいて現実的でない、どこからどこまでも虚構でしか存在しえない世界をでっちあげることでこの映画が成り立つ。そのような虚構だらけのものを突きつけられたとき、さらに積み上げられた虚構が現実味を帯びてしまう。いや、それが本当のことだという錯覚に陥らざるをえない。つまりは
 それは完全に嘘臭すぎる鯉の釣り堀に集まってくるほとんど無言の人たち。やっと釣り上げた鯉を見て「この鯉は死んでいる。だって動かないもん」と、鯉を釣り堀の中に投げ捨てるシーンは怖いねぇ。
 完全に崩壊してしまった家族が豊の求心力のもとに寄り集まってくる。母が、妹が、集まってきたところで「一瞬でも元の家族が揃うことがあるだろうか」と。その問いかけに黒沢清が提示した答えが凄すぎる。
 ここでこの家族にジョーカーの役割をもたせているのが「目障りなんです」の哀川翔。この使い方は文句無し。そして役所広司、この話は黒沢清が仕立てた狂言。まさに役所広司は一転、その狂言回しの役に徹している。ほとんど全てのシチュエーションをお膳立てするのが役所広司なのだ、せっせとゴミを持ち込むことによって。たんたんと最期の豊のことばに向かって押し寄せてくる。ただそのひとことは必要だったのか、時として黒沢清はしゃべりすぎてしまう。う〜ん、でもやっぱりなくてもいいじゃないかと言い切れないなぁ。


監督・脚本 黒沢清
撮影 林淳一郎
音楽 ゲイリー芦屋
出演 西島秀俊 / 役所広司 / 菅田俊 / リリィ / 麻生久美子 / 哀川翔 / 洞口依子 / 大杉漣
★★★★☆



2002年04月09日(火)
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