nikki-site 雑文速報
 あいうえお順INDEX 



 ▼ アニエス・メルレ『アルテミシア』 (1997 仏,伊)



 アルテミシア・ジェンティレスキ(1593 - 1652) この『アルテミシア』のオフィシャルページのキャッチを引用すると、
《17世紀のローマ、わずか17才で、奔放に、大胆に、官能的に、欲望のおもむくままに愛と芸術に生きた伝説の女流画家アルテミシア》
 上にアップした絵は《Judith Slaying Holofernes》(1613)、映画の中でもちらっと写されているカラバッジオの同名の絵(1599)をアルテミシアが描きあげたもの。そんなふうにカラバッジオからの影響をもろに受けているアルテミシア。だからついデレク・ジャーマンの『カラバッジオ』と比較してしまっている。困ったもんだわ。
 さてと、よくかのNHK(BS2)がこんなのを流したなと感心したのがまず第一。いきなり修道院の中で自分自身をモデルにした裸婦のデッサンを描くシーンで、アルテミシアのバレンティナ・チェルビのハダカが出てくる。NHKも進んだもんだ、いや芸術だからなんですよ(^_^ゞ アルテミシアの親父オラーツィオ・ジェンティレスキ (ミシェル・セロー)も画家で、アルテミシアもそのアトリエの助手をつとめてたりするんだけど、そのアトリエのシーンなんかはおもしろかったなぁ。天使なんかのモデルは本当に天井から吊り下げてんだもん。その父オラーツィオがアゴスティーノ(ミキ・マノイロビッチ)と共同で寺院の壁画を担当することになって、老練オラーツィオと新進気鋭のアゴスティーノとの芸術上での確執なんかも描かれておもしろかった。遠近法なんてのは当たり前のように思うんだけど、オラーツィオの時代にはなかって、アゴスティーノになると積極的に取り入れてんだね。一方、その当時、絵画の世界はいわば女人禁制のようなところがあって、「画家として初めて認められた女性」となっていくのだけれど、カラバッジオより以上にこのアゴスティーノによるわけ。つまり美術学校では女性は受け入れてもらえないような時代だった。だからこのアゴスティーノに弟子入りするのだけれど、当然のようにアゴスティーノとアルテミシアは関係をもつようになる。ここでアルテミシアはアゴスティーノをモデルにしてしまって、そのポーズが上の《Judith Slaying Holofernes》
 さてと、ここからが悲劇ね、アルテミシアは「画家として初めて認められた女性」であって、その一方で「最初のレイプ訴訟に関った女性」になってしまう。そしてまたそれが後にフェミニズム運動のシンボルになったというんだから。アルテミシアが画家として誕生していくうえでこのレイプ訴訟というのは避けて通れないかもしれない。ところがボク的にはこの後半のレイプ訴訟の段になると、ぐっとつまらなくなった。レイプ訴訟といっても、アゴスティーノとアルテミシアの関係が父オラーツィオにバレてしまって、父がアゴスティーノを訴えて出たもの。どこまで史実なのかわからないけれど、この映画で見る限りレイプなんかじゃない。アルテミシアの芸術以前に歴史上初のレイプ訴訟ということで、フェミニズム運動のシンボルとして独り歩きしだしたのと同じように、この映画もレイプ訴訟からがらっとアメリカ映画のタッチになってしまって、アルテミシアの芸術そのものはふっとんでしまってた。レイプ訴訟での拷問シーンなんて必要ですか? 史実がいかであれ、女流監督アニエス・メルレから見た「画家として初めて認められた女性」を描いてほしかった。そう認められるようになったのはレイプ訴訟以後のことだし、実際レイプ訴訟以後40年も生き、作品を描き出したのだから。

The Life and Art of Artemisia Gentileschi

Artemisia
製作 パトリス・アダッド
監督 アニエス・メルレ
脚本 アニエス・メルレ / クリスティーヌ・ミレール
撮影 ブノワ・デロム
音楽 クリシュナ・レビ
出演 バレンティナ・チェルビ / ミシェル・セロー / ミキ・マノイロビッチ / ルカ・ジンガレッティ / エマニュエル・デボス / フレデリック・ピエロ / モーリス・ガレル
★★★



2002年07月30日(火)
 ≪   ≫   NEW   INDEX   アイウエオ順INDEX   MAIL   HOME 


エンピツ投票ボタン↑
My追加