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 ▼ アッバス・キアロスタミ『そして人生はつづく』 (1992 イラン)


 1990年のイラン北部の大地震により、先の『友だちのうちはどこ? 』のロケ地=コケルは壊滅状態になったという。『友だちの〜 』であのアハマド少年は、あの映画に出演してくれた人たちは無事なのかと、キアロスタミ監督が自ら(といっても監督自身が出演じゃなくて、ファルハット・ケラドマンドが監督を演じている)が息子(プーヤ・パイバール)を連れて、地震発生後5日の現地を訪れるというドキュメントのようなロードムービー。もちろん撮影が地震直後の現地で行われたはずがない。そこは壮大な映画のウソ。神戸の地震直後というのを現実に見てたら、この壮大なウソというのは簡単にわかるけどね。
 この壮大なウソということでいえば、種明かしというかネタばらししてくれてんだけどね、それは『友だちの〜 』の「人生なんてそんなに長いのか」と曰った道案内の爺ちゃん、この爺ちゃんに再会するシーンは笑えた、笑えた。しかしこの爺ちゃんが語ることばというのは飄々としていながら今回も含蓄深いのだ。途中でアハマド少年が駆け上がったジグザク道もちらっと写しだされて、このジグザグ道は『友だちの〜 』ではコケルの村からすぐの見える位置にあったはずなのに。
 それで何気なく見てたら、これはほんとドキュメントじゃないかと勘違いしてしまうんだけど、完璧にキアロスタミに計算されたフィクションなのだ。とにかくイランの人たちが語ることばの全てが用意された脚本にあったというんだから、《善人の振りをした悪党》と評されるような誤解も生じるというもの。だが、そのことばが悪意に塗り固められているのなら、そのような批評も的を得ているかもしれないけれど、地震の現実を元にこの物語を再構築してしまう手腕と頭脳はケタ外れなものだと感じずにはいられない。監督と息子がそれぞれに別れて村の人と語り合う。そうすると、親子そろって別々に同じことを聞く。この水は飲めるのか。泉の水なのにどうして蛇口が付いているのかと。順々に『友だちの〜 』の懐かしい子どもたちに出会う。彼らはみんな時の流れに「成長」し、そしてみんな地震にも生きることができた。
 大地を雨がうがったのか、地震が大地を引き裂いたのか、荒れはてた光景は圧巻。そしてそのような自然に対しても人々は同じように生活をしようとする。ワールドカップを見ずにはいられない。地震が何だというより、ワールドカップでどこの国が優勝するかのほうが彼らの生活だというのは神戸で教えられた通りなのだった。
 誰もが言うようにラストのシーンはほんといいよね。
 さて肝心のアハマド少年の安否は...次の『オリーブの林をぬけて』に持ち越されます。

Zendegi Edame Darad
製作 アリ・レザ・ザリン
監督・脚本 アッバス・キアロスタミ
撮影 ホマユン・パイバール
出演 ファルハット・ケラドマンド / プーヤ・パイバール
★★★★★



2002年08月05日(月)
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