ゴダールというのは何か書こうと思うんだけれど、ほんと書きづらい。というのもゴダールに関してはボクなんかが書く以前に書きつくされてるから、いまさらという感じがして。なんか頓珍漢なことを書き散らしてしまいそうで。アホ書いてたら、笑ってやってくださいませ。 というわけで、いざ書こうとして、はたと困る。ストーリーってものがない。強いていうなら、ポール(ジャン・ピエール・レオー)とマドレーヌ(シャンタル・ゴヤ)の恋物語っていうても好いた惚れたの世界でもないしね。ただね、こういう男と女の関係を見ていると妙にほろ苦い。考えてみれば、これはボクたちそのものであったような、つまり月並みに青春だったという気がしてくる。
なんら脈絡のないドラマの上にボクたち自身の自分史が成り立ち、かといってそれがドラマになんかなりえない、とるに足りない個人的なドラマでしかない。だけれど、その瞬間瞬間においてそれぞれのドラマをかたちづくっている。他人様がみれば、なんらドラマにもならないことの連なり。。。。。
それをずばっと描き出してしまったのがゴダール。《15の明白な真実》と題された15のドラマになりえないドラマの連なり。それらが一見脈絡もなくひとつひつつのエピソードに過ぎなかったのに、いまこうして自分がいる、ひとつの自分史ができつつあるのと同じように、ひとつの映画として成立させてしまうんだから。
フランス映画嫌い、とくにゴダール嫌いにはそれでもわけわからん、何が言いたいんじゃという世界だろうけれど、ほんとひとつひとつのエピソードはおもしろい。例えば、映画館のシーン、ここで上映されるのがゴダールのごく初期の短編だったりして、それを見たポールが「サイズがちがう!」と映写室にかけこむ。これなんか何がおもしろいんだかわからんのだけれどおもしろい。ま、見るほうはそれがゴダール自身の映画だとわかってないのは当たり前なんですけどね。ボクも後になって、なんかで読んだんだけど。それよりか、ガラガラの映画館にぱらぱらと座っているおっさんたちが映画が始まる前に一様に新聞を広げて読んでいる様子なんておもしろいんだけれどね。ほかにブリジット・バルドーが実名で出ていたり、ゲーセンだかで突然ナイフを持った男に刺されるのかと思いきや、ナイフ男が自分の腹にナイフを突き立てる、こういうのって不条理漫画のノリだよなぁ。決してfunnyってもんじゃないけれど、わくわくするんだけれど。
もうひとつ、今回見直してみて気がついたこと。最近ボクがとみに興味をもっている都市の描写。すごく写真っぽいんだよね。無名の都市の人間たちを見ているだけでもおもしろいよ。
MASCULIN FEMININ
監督・脚本 ジャン・リュック・ゴダール
撮影 ウイリー・クラント
録音 ルネ・レヴェール
編集 アニェス・ギュモ
出演 ジャン・ピエール・レオー / シャンタル・ゴヤ / マルレーヌ・ショベール / ミシェル・ドゥボール / カトリーヌ・イザベル・デュボール★★★★★