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 ▼ 篠田正浩『心中天網島』 (1969 日)


 これって当時成人映画だったんだよね。いまじゃちぃっと信じられない話だけれど、立派に《十八歳未満お断り》映画。で、ボクはっていうと花の十七歳ですよ! 大阪のATG専門館の北野シネマの会員で、その入会の時に《年齢18》って書いてたから。
 『初戀地獄篇』、『新宿泥棒日記』そしてこの『心中天網島』とどれも十七歳のボクにとってはショッキングだったな。この三本を現在までひきずってると言ってしまっても過言じゃないよ。
 去年だったか、初めて文楽で『心中天網島』を観たけれど、小春は吉田玉男ね、それでもやっぱりこの映画の印象が強烈だったから、肝心の道行の段でも長棹10本並べられてもド派手なだけで、なんかちがうなぁと思った。おまけに今年の初めには「心中天網島道行を歩く」なんてお徒歩やってしまって、しっかり網島の大長寺にも、小春の墓にもお参りしてるくらい、とにかく思い入れは人一倍。
 17のとき、つまり34年前に、2,3度観たのかなぁ。それから大学時代にも観たような。それからだから、やっぱり30年近く経ってるというのに、かなりデティールまで覚えている。「あんた泣いてんのか」という岩下志麻の台詞がすっと出てきてしまうんだもん。
 それはそれとして、富岡多恵子、武満徹、粟津潔ってこの怱々たるスタッフは何よ。冒頭で文楽の舞台裏を撮影するバックで、篠田正浩と富岡多恵子が脚本の打ち合わせをやってるところから始まる。すると極度にデフォルメされた粟津潔の装置がもう最高。文楽で太夫がくるっと回って出てくるのもしっかり取り込んでんだから。冶兵衛(中村吉右衛門)が狂乱するところで、セットがばたんばたん倒されていくところなんかはもう圧巻。それに床本を配した装置はもう目に焼き付いて離れない。
 それからロケハン、いまだとふつーに見えるんだけれど、錦帯橋、倉敷、金沢、ラストの網島に使われたロケ地って、あの木津の流れ橋だよなぁ。冒頭の篠田正浩と富岡多恵子の打ち合わせでネタばらししてるんだけれど、道行に京都の墓場をロケして、そこでの「この世の名残り、夜も名残り」あ、これは曽根崎心中だった(^_^ゞ この段(あえてシーンと言わない)のエロいこと。岩下志麻の白い脚が、たまらない。
 んーんとベタ褒め、褒め殺し、褒め心中ってところなんだけれど、これほど見事にモノクロを活かしてる映画もないんじゃない。床本を配した装置ね、岩下志麻の白い脚ね、そしてそしてこの映画で最も効果的な役回りは黒子(天井桟敷劇団員)。文楽ではあくまでも影の存在でしかない黒子がある意味では主役に仕立てあげてしまってる。ラストの黒子は完全に死神でしょ。橋の上で手招きする黒子、冶兵衛を吊り下げる黒子にはほんと身震いしてしまうよ。ボクは倉敷の土蔵沿いにきゃっきゃっと駆けていく黒子のシーンが好きなんだけどね。あ、それと道行に入るときに白壁に黒子の影が映るところ。書きだしたらきりがない。
 最後に小春とおさんの二役の岩下志麻。同じころの映画『内海の輪』で三国連太郎がほんとに岩下志麻に指を入れてたとか、ほんまかいなというような話まであったんだけれど、この『心中天網島』はやっぱり岩下志麻にとって最高でしょ。だってエロいもん。今じゃ極妻の姐さんだけど。
「私自身にとっては、篠田作品の『心中天網島』が、私の女優生活の中で一番大きな“節目”になりました。」



製作 中島正幸 / 篠田正浩
監督 篠田正浩
脚本 篠田正浩 / 富岡多恵子 / 武満徹
美術 粟津潔
撮影 成島東一郎
音楽 武満徹
出演 岩下志麻 / 中村吉右衛門 / 小松方正 / 滝田裕介 / 藤原釜足 / 加藤嘉 / 浜村純 / 天井桟敷
★★★★★



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2002年12月04日(水)
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