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 ▼ フランソワ・トリュフォー『アデルの恋の物語』 (1975 仏)


 『レ・ミゼラブル』のヴィクトル・ユゴーの次女アデル・ユゴーの史実に基づいた話。
 ここでトリュフォーがすごいなぁと思うのは、ヴィクトル・ユゴーがちらっとでも出さないところ。ユゴーがアデルあてに出した手紙を声だけで読み上げる、それだけにとどめてる。普通、こういう史実に基づいた話の場合、誰かがいかにもユゴーですわいとしゃしゃり出て来させるものだけれど、トリュフォーはずばりアデル一本に絞りきった。しかも、これが実質的に映画デビューとも言える(コメディー・フランセーズではすでに名を挙げていたらしい)のイザベル・アジャーニを使って。
 アデルの生き方に関してどうこうじゃなくて、アデルという女をぽんと投げ出した描き方というのがほんとすごい。アデルの極度に一方的なひとりよがりな恋の物語を、同じアデルの視点にもっていって、ひたすらアデルの側から描き出した。これを、ユゴーを出してきたり、男の立場からも描いたりすると散漫になってしまうんだよね。
 それにしても、このイザベル・アジャーニのきれいさってどうよ。ボクだったら、どんなにイヤらしくてしつこかろうが、ころっと逝ってしまいますが。そしてイザベル・アジャーニのエキセントリックさ、これがもうたまらない。『ポゼッション』でのエキセントリックさはほんと忘れられない。さすがに『カミーユ・クローデル』になると、読めてしまってつまらんのだけどね。とにかくアデルのアジャーニは最高。
 それからこれはトリュフォーによるのか、撮影のネストール・アルメンドロスによるのかわからないけれど、とりたてて意表をつくような映像が表れるわけでないのに、例えば雪の中を本屋から出ていくシーンに見られるように、抑えたというといいのかな、そのくせがっつりツボを押さえた絵がいい。監督やカメラの力技でなくて、ごく自然に見せてくれる。邪魔をしない絵。音楽でいえば、ドラムス、ベースというリズムセクションがきっちりビートを刻んでいるから、リードのアジャ−ニがさらに前に出て見える。そういうごく基本的な当たり前のことが当たり前のように見せられている。もちろん何度も繰り返される手紙のシーンでも、それは演出効果によるところが非常に大きいのだけれど、アデルを、アジャーニを見せるということに、ばしっと決め打ちされた映画だなあとつくづく思ったのでありました。

L'histoire D'adele H.
監督 フランソワ・トリュフォー
脚本 フランソワ・トリュフォー / ジャン・グリュオー / シュザンヌ・シフマン
原作 フランセス・V・ギル
撮影 ネストール・アルメンドロス
美術 ジャン・ピエール・コユ・スベルコ
音楽 モーリス・ジョベール
出演 イザベル・アジャーニ / ブルース・ロビンソン / ジョゼフ・ブラッチリー
★★★★☆



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2002年12月11日(水)
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