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■ ▼ アキ・カウリスマキ『過去のない男』 (2002 フィンランド, 独, 仏)
あっと言う間にカウリスマキの魔術にはめられて、カティ・オウティネンが来ると聞くや飛んでってるボクって。。。 今回もきっちりはめられました。というか、わかってんだけどなぁ。このはめられかたの快感。それにもまして、よりくだけてきてるというか、こなれてきたというか、いいねぇ、よかったねぇ。カティ・オウティネンを生で見たから言うんじゃなくてね。 カティ・オウティネンは救世軍で働く、例によって質素に女なんだけれど、救世軍の仕事を終えて、自室に戻ってホッと一息ついたときに、ラジカセ(日本では考えられないような安モン)から流れてくる音楽が、救世軍の音楽からいきなりロックに変わるんだよねぇ。この落差があまりに見事だった。彼女がインタビューに答えて言うのに、このシーンははじめここではブルースを入れるからねとカウリスマキは言うていたらしい。ところができあがってみると、ロック。。。これには彼女自身もびっくりしたと。 まずは音楽がいつものように素敵。他のカウリスマキのまごれびゅでも書いたけれど、ブルースなんだよなぁ。もちろんほんまもんのブルースも使ってる。だけど、フィンランドのポップ(?)にしても、救世軍の音楽にしても、ブルースに聞こえてくる。 話はどっと変わるけれど、きょうは花輪和一の『刑務所の中』を読んでいた。ふつう獄中記となると、暗くて、湿っぽい恨み辛みだったり、さもなくばわたしはこのように優良徒刑囚でかくのように更生いたしましたなんだけれど、そうじゃないのね。どこか、この『刑務所の中』に共通したような快感のようなものが感じられる。どちらもテーマ的には暗くなってしまうはずなのに、にはははと笑ってしまえる落としもしっかり挿入されていて、なんかほんと笑えるんだよね、心臓が停止してしまって、医者と看護婦が立ち去ったあとに、包帯ぐるぐる巻の男がむくっと立ち上がって包帯を引きむしる。なんじゃ、なんじゃもんなんよね。でもやっぱりカウリスマキのとどめない下降ベクトルに引き戻される。が、妙にすがすがしい。いったいこのすがすがしさって何なんだいと思ってしまう。ボクのように世の中を斜に見てしまう天の邪鬼であってもね(苦笑) せっかくだから、カティ・オウティネンのことばをひろっておくと、カウリスマキはかなり、というか、かなりきつい監督で、当たり前のことのように独裁者らしい。ブルースだと言ってすっとロックにすり替えてしまったり。そして役者に対して、演技でなく なり切るように要求してくるという。だから撮影に入る数日前から、例のカティ・オウティネン無表情女を始めるらしい。(もちろん生カティは表情豊かで、そうしてひとつひとつの質問にまじめに言葉をつくして答えてくれる人でした。)そうして、話の頭から順に撮り始めていって、それぞれの役者が世界を作り始めると、ぽんぽんあっちこっちと飛んで撮っていくらしい。 ちなみにこの『過去のない男』で、カンヌでついにグランプリ。そしてカティ・オウティネンは主演女優賞。あ、書き忘れてしまうとこだった。過去のない男=マルック・ペルトラとカティ・オウティネンが初めてキスするシーンのなんとせつないこと。もうたまりません。
MIES VAILLA MENNEISYYTTA 監督・製作・脚本 アキ・カウリスマキ 撮影 ティモ・サルミネン 出演: マルック・ペルトラ / カティ・オウティネン / ユハニ・ニエミラ / カイヤ・パカリネン / サカリ・クオスマネン / アンニッキ・タハティ
★★★★★
2003年01月18日(土)
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