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 羽仁進『初恋地獄篇』(1968 日)


 これはボクにとっては記念碑的な映画で、この映画を見に連れて行かれるまでボクは「よい子」だったのですよ。この映画を境にどどどーっと坂を転がり落ちるようにダークサイドへの道を歩むようになった。もうお気づきでしょうが、このまごれびゅもメジャー作品なるものが異常に少ない。これはひとえにこの『初恋地獄篇』に端を発するのであるます。
 それはさておいてこの映画をきっかけに寺山修司=天井桟敷という存在を知るようになったわけなんだけれど、当時高校2年生だったボクにとっては、非常に扇情的でシゲキック、なおかつほろ苦い映画だったのですね。
 まずどこがほろ苦いのかというと、今の高校生なんかにしてみればアホくさい話なんかもしれないけれど、二人でラブホに、いえ当時はラブホとかファッションホテルなどという言葉さえなくて、連れ込み旅館ですね、とにかくラブホに入ってやってくるなんて、とてもとても。確かに高校生でもやっちゃったぁなんてのもおるにはおったんだけど、とにかくボクはこの映画を見た時点では童貞です(-.-)キッパリ で、「誰か、童貞ほぉらしてくれへんかぁ」などと。ある意味でこのシュン(高橋章夫)に自分をオーバーラップさせていたのも事実です。いかに「童貞よ、さよなら」できるか、つまりは「初恋」を成就できるか、なんて毎日思い悩む高校生だったのです。う〜ん、どっちかというと、文化祭シーンでの『初恋の軌跡』なんてほうがごく一般的だった、そんな時代だったってこと、もちろんその一方で、日夜「初恋」を成就させたい、つまり「やりたい」世代でもありました。ついでだから先に片づけておくと、この挿入される8mm映画『初恋の軌跡』はアホくさと思う反面、なかなかよくできていると思うのだが。
 一方、どこが扇情的だったのかというと、ナナミ(石井くに子)のような女がいるということ自体、当時のボク、さらに一般的に高校生には扇情的だったのですよ。今だとちょっと信じられないかもしれんけどね。女斗美なるSMショーにしたって、たしかにSMなんてのはボクのアンテナにはとうにひっかかってきていて、SM雑誌をこっそり買っては抜いてみたりもしてはいても、テキストから来る想像上のもの、あるいは美濃村晃の挿画(なんて出てくるところはけっこうマニアでしょ(^_^ゞ)から、これまた想像たくましく妄想を拡げていくだけに過ぎなかったのに、この『初恋地獄篇』の中では動いてるんですよ。これが刺激ックでなくてなんなんだ。
 と、あはっ、自分のことばかり書いてしまった。さてと、話は単純で、幼少期の不遇な一面をもつシュン(高橋章夫)と、集団就職から今でいう風俗の世界に入ったナナミ(石井くに子)の純愛物語だと言い切っておきましょう。
 で、寺山修司ですが、詳しくはここで書かない(まごまご日記に書くつもり)けれど、ボクはこの映画は寺山修司の映画だという思い込みがあったので、こないだ森崎偏陸さんに聞いてみると、やっぱりこれは寺山でなくて羽仁進の映画の色が濃いという。余談ですが、羽仁進は、『都市の論理』で一種教祖的存在だった羽仁五郎の息子で、左幸子の旦那で、この映画で「たまねぎをむくと?」と言う子どもは娘の羽仁未央。このモミ(未央)とのシーンはほんとに美しい。日本映画史上に残る美しいシーンと言ってもいい。で、ボクは思い込みから、どっと寺山に走ってしまったせいで、この羽仁進の他のを見ることもなかったので知らなかったのだけれど、寺山と同じように、街の騒音だとかも取り込んでドキュメンタリタッチ(ドキュラマ)で描き上げていくらしい。そう言われるともっともで、今回30年ぶり(大学の間に1,2回見たような記憶がある)に見直して、同時に寺山自身が監督したものを見ていると、これは寺山じゃないやね。それまでのキャリアからしても羽仁進主導で作られたのは間違いないね。とは言っても、シュンが父無し子であったーこれは寺山に通底しているーとか、表面的には羽仁進ではあっても、その底に流れるのはまちがいなく寺山だね。
 それから偏陸さんが言うに、この『初恋地獄篇』は寺山の中でも一番好きじゃないと。『地獄篇』の部分が強調されていて『初恋』の部分の影が薄い。つまりボクが上に書いたような、扇情的なあまりほろ苦さという面が損なわれてしまっているわけ。うんうん、そう言われてしまえば、まさにそうで、まずがちょーんと来たのは扇情的なところなわけだった。扇情的→キワモノ→天井桟敷なんて思考経路もできてたり。だけれど、今回見てみると、その扇情的な部分というのは時代の趨勢からか、ふつーにしか見えなくて、ほろ苦さばかりが際立ってしまって見えたのだった。これもひとつには年のせいかもな、なんて苦笑い。偏陸さんの言う『地獄篇』の部分はさておいて、歌の挟みかたであるとか、カットの割って入り方だとか、今見ても映画的に扇情的で、やっぱりボクにとってエバーグリーンな映画だと確信した。



製作 藤井知至
監督 羽仁進
脚本 寺山修司 / 羽仁進
撮影 奥村祐治
美術 金子国義
録音 久保田幸雄
出演 高橋章夫 / 石井くに子 / 満井幸治 / 福田知子 / 宮戸美佐子 / 湯浅実 / 額村喜美子 / 木村一郎 / 支那虎 / 湯浅春男 / 羽仁未央   
★★★★★



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2003年05月04日(日)
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