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 寺山修司『ボクサー』(1977 日)


 さすが伝説の『あしたのジョー』では力石徹の葬式までやってのけただけあるよ。まずしょっぱなから、元チャンピオンの死を悼んでテンカウントで始まるってんだから。ちなみに、何だったか、寺山修司の追悼イベントでもテンカウントやったとか。で、しっかりネタばらししときますが、天馬哲生(清水健太郎)はラストではぼろぼろになりながら勝つには勝つのだけれど、はたしてその後はどうなったか、語られていませんです。力石徹の葬式までやった寺山のことだから、力石と同じ道を歩ませるつもりだったのか。一方でばこすかサンドバッグのように打たれまくって、そこでカウンターパンチ一発で仕留めてしまうジョーのようなことも哲生にやらかしてんだから、さてさて、天馬哲生をどっちにダブらせていたのか。
 それから、寺山のボクシング通ときたら、白井義男、ファイティング原田、海老原博幸、輪島功一、西城正三、柴田国明、具志堅用高、ガッツ石松の錚々たる歴代チャンピオンを登場させてるってのもすごい。それで、ボクなんかの世代はつくづくボクシング世代なんだなと思い知らされたのが、F原田のポーン・キングピッチからチャンピオン奪取した一戦('63)のフィルムに続いて、同じキングピッチから海老原がチャンピオンを奪い返した一戦('64)も流れる。これって鮮明に覚えてんだよなぁ。1R2分7秒KO。をいをい、まさか1R2分7秒じゃないだろうなと思ってたら、その通りに下にテロップが入ったから。ちょっとうろ覚えのところがあるんだけれど、F原田の防衛戦はキングピッチのタイで行われて、その当時だから衛星中継なんてあらへんよ。その一戦を短波放送でガーピーという雑音の中で聞いていた。これにF原田は負けて、キングピッチが再びチャンピオンに。それを奪い返したのが海老原だったのさ。あ、どうでもいいんだけど、あまりに懐かしかったから。
 実はこの『ボクサー』は見てなかったんよね。たぶん東映だったからか。77年になると、飽きっぽいボクのことだからボクシングはもうほとんど見てなかった。『あしたのジョー』とともに燃え尽きた。。。
 ところで話を映画に戻すけれど、「商業主義に妥協して陳腐なストーリー」と松本俊夫は評したらしいけれど、「陳腐なストーリー」で悪うござんした。ボクシング映画で陳腐なストーリーでないものがあったら教えてくれや。ちなみにボクは『ロッキー』を見て不覚にも泣いてしまった。あゝ、これぞ究極の浪花節。だいたいボクシングそのものからして、ハングリー=美徳とする陳腐なストーリーなくして成り立たないでしょ。そこんところに涙橋食堂を舞台に、寺山ワールドをもちこんだ寺山に拍手、拍手。われらが新高ちゃん(=ガラシャ)はしっかりつぎの『上海異人娼館』の愛染まで演ってくれちゃってる。ボク的に文句をつけるとすれば、あのですね、例えば文太がポスター貼りしてるでしょ。そのポスターを貼ったすぐあとに、《どもり、対人恐怖症》のポスター貼る。これは笑えた。そいえば、『書を捨てよ』でもでっかい看板があったな。それはいいとして、仁丹の看板がぶら下がってる。これってわざとらしくないか?う〜んとどのシーンだったか、ガードのところを文太が歩いてるところだ、電車の遮断機の警報が鳴ってるところ、そのような何気ない街の描写だけで十分に寺山であるのに、でもまぁ仁丹や福助の看板を出さないと気が済まないのは寺山のご愛嬌だと考えておきます。
 最後の一戦を前に、ガラシャは去り、ボクサー犬が去り、隼(菅原文太)の娘みずえ(伊佐山ひろ子)も去り、あ、この電話ボックスのシーンいいよねぇ、そして文太が去っていく予感さえ漂わせての最後の一戦。さよならだけが人生だ。


監督 寺山修司
脚本 石森史郎 岸田理生 寺山修司
撮影 鈴木達夫
音楽 J・A・シーザー
美術 桑名忠之
出演 菅原文太 / 清水健太郎 / 小沢昭一 / 春川ますみ / 地引かづさ / 伊佐山ひろ子 / 唐十郎 / 新高恵子   
★★★★☆



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2003年05月05日(月)
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