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 フランソワ・トリュフォー『映画に愛をこめて アメリカの夜』 (1973 仏, 伊)


 きのうの『うつしみ』にイヤミというわけでもないんだけど、映画作りの裏側を描くのならこう描けと言いたくなるような。映画がいまおかれている状況に苛立ちのようなものを出発点として描かれているのに対して、このトリュフォーの場合は映画への愛着が出発点にある。確かに製作サイドとの衝突であるとか、同じように苛立ちというのがあったわけで、そのことはこの『アメリカの夜』でも描かれているのだが。
 トリュフォー自らフェラン監督の役でほとんど出ずっぱり。「ピストルはどれを使いますか?」「かつらの髪の毛の色はこれでいいですか?」と瑣末なことまですべて監督の元に集中してくるといった調子。その一方で、俳優の間のラブアフェアにひっかきまわされて、撮り始めたときにはこの映画をこうしようと夢いっぱいなのに、しまいにゃ、なんでもいいからとにかく最後まで撮らせてくれ。なんかこうドタバタ喜劇なんだよね、高品位の。
 ハリウッドから呼んだ主演女優のジュリー(ジャクリーン・ビセット)はノイローゼ気味でパトロン付き。ジュリーと役の上でからむアルフォンス(ジャン=ピエール・レオー)はスタッフの女の子に撮影中に逃げられ、ジュリーに泣きを入れたところ、こういうのをPity's akin to love.というのか、慰めにジュリーはアルフォンスと一晩寝てやった。ところがアフォの甘えたアルフォンスはパトロンに電話を入れて、「ジュリーはボクチャンとやっちゃったんだから、あんた別れなさい」 というようなゴタゴタ。ほんま映画一本撮るのも大変だ。うーんとこれで安物のメロドラマになってしまわないのもさすがってところだけれど、そこで、それまで極く端役にとっていた嫉妬深いスタッフの嫁さんを使ってずこーんと「これが映画? あきれた」と逆上させて、言いたいことを言ってしまうなんて、ひゃーすごいなぁ。かつての大女優にボケが入ってみたり、揚げ句の果てには主演男優のアレキサンドル(ジャン=ピエール・オーモン)、メインだからと好きにさせておいたら事故で死んでしまって、映画そのものが作れなくなる危機に瀕してしまう。キャストのほうだけでなく、スッタフの一人ひとりを描いていく、なんていうの中庸さとでも言ったらいいのか、くどくならず、かといって、メインさえ描けばいいというのでもなく、ここらのさじ加減って抜群なんだよなぁ。
 それでも映画は完成させるのだ! とにかくこの映画を日の目に当てるのだという心意気の凄さ。まさに映画に取り憑かれた一種の運命共同体。しかもクランクアップとともにその共同体も解消されてしまう。
 なんか、こうね、自分もそのスタッフのどこかに組み入れられてじゃないかという幻想、組み入れられたいという欲求を満たしてくれてうれしいのであった。

 あ、「アメリカの夜」というのは昼間にフィルターをかぶせて夜間のように見せて撮ってしまうという一種の業界用語。意味深。

La Nuit Americaine
製作 マルセル・ベルベール
監督 フランソワ・トリュフォー
脚本 フランソワ・トリュフォー / シュザンヌ・シフマン / ジャン・ルイ・リシャール
撮影 ピエール・ウィリアム・グレン
美術 ダミアン・ランフランキ
音楽 ジョルジュ・ドルリュー
出演 ジャクリーン・ビセット / フランソワ・トリュフォー / バレンティナ・コルテーゼ / ジャン=ピエール・レオー / ジャン=ピエール・オーモン / ナタリー・バイ / ダニ / ニケ・アリギ / ジャン・ピエール・オーモン
★★★★☆



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2003年05月18日(日)
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