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 鈴木清順『夢二』 (1991 日)


 竹久夢二に名を借りた絢爛たる清順ワールド。最初から最後までやりたい放題。きっと竹久夢二というステータスに期待を抱いて見た人は「夢二はこんなんちゃうううう」と怒りだすだろう(笑) が、しかし多分に夢二というのはこんなんだったんだろう。
 『陽炎座』、『ツィゴイネルワイゼン』、そしてこの『夢二』でいちおう大正三部作をなすとは言うけれど、前二作から10年を経ているし、それらの重さに比較すれば、軽さが異様に目立つ。が、これは『陽炎座』、『ツィゴイネルワイゼン』への清順流の解答だったような気がする。どちらかというと、『ピストルオペラ』に近いような。映画=物語という文法をあえて捨て去って、イメージをつなげていく。10年の間に貯め込んだ清順のイメージを一気に吐きだそうとする。
 だから意匠として、大正ベルエポックを、ふんだんに提示されようが、記号としてのいやらしさが見当たらない。鈴木清順というフィルターを通して、大正という記号ではなく、鈴木清順の記号として提示されているからなのだ。話は大正6年に彦乃と金沢の湯涌温泉に滞在した史実から、非現実の世界に入っていく。
 もうひとつに、竹久夢二という大正の時代の寵児に、あえて沢田研二をもってきたことも清順ならではのこと。ボクのような世代にとっては、沢田研二は沢田研二である以前にジュリーなのだ。つまり70年代という時代の寵児だったジュリーのせいで、竹久夢二であるより、やっぱりジュリーなのだ。だからこそ、竹久夢二という枠の中だけで語られず、どんどんはみ出していく。
 そうして、ジュリーをとりまく女たち、いや、竹久夢二をとりまく女たち、彦乃が宮崎萬純であったり、かの「黒船屋」のお葉が広田玲央名であったり、この物語上の脇屋巴代が毬谷友子で、彼女たち三人は、番を張るような女優でないことに注目。こういうきわどいことができるのも清順だから。あえて芝居を壊そうとする、どこかおちゃらけた雰囲気がぷんぷん。この三人の女たちを、看板にできる女優、しかも若い女優。いまで言うと、井川遥?釈由美子?なんてところを使ったりすると、全然違うところで食われてしまう。三人三様に、それなりのきらびやかさを出させてるんだから、これって確信犯だね。そして、原田芳雄、大楠道代、坂東玉三郎というところでしっかり締める。なんかまんまと清順マジックにはめられてしまう2時間。なんでこの爺、こんなかっこいい絵を撮れるんだろう。

 
製作 荒戸源次郎
監督 鈴木清順
脚本 田中陽造
撮影 藤沢順一
美術 池谷仙克
音楽 河内紀 / 梅林茂
出演 沢田研二 / 毬谷友子 / 宮崎萬純 / 広田玲央名 / 原田芳雄 / 大楠道代 / 坂東玉三郎 / 長谷川和彦 / 麿赤児
★★★★☆



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2003年06月23日(月)
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