nikki-site 雑文速報
 あいうえお順INDEX 



 ミケランジェロ・アントニオーニ『欲望』 (1966 英, 伊) ★★★★★

 この映画のどこがおもろいねんと聞かれたら困ってしまうんだけど、不思議な魅力があって何回か見てしまう、そんな映画って、一本くらいあったっていいじゃない。
 ファッション・フォトグラファーのトーマス(デヴィッド・ヘミングス)は、モデルたちは彼に撮ってほしがるくらいの売れっ子。だが、モデルたちを撮っている彼はいらいらしている。スタジオから抜け出し、公演のアベック(うっ、死語)をこっそり撮っていると、女の方が、いま撮ったフィルムを返せと迫ってくる。その場を切り抜けはしたものの、女はスタジオにまでやってきて、しまいには体でそのフィルムを取り返そうとする。しっかりその体だけがいただいて(いただいたんだよな)、別の撮影済みのフィルムを手渡した。さてその盗撮(ってもんでもないが...笑)したフィルムを現像してみると、をー、この写真、なかなか素敵です。焼き上げたばかりの写真をスタジオの壁に貼り付け、つぶさに眺めていると、そこには殺人事件が写されていた。
 と、これくらいにしといたろ。な、ミステリーじみてるだろ。
 えーっとですね、この映画の中で写真家トーマスだけが名前を持っている。あとはすべてanonymous。体で払ってでもフィルムを取り返そうとした女ですら名前はない。トーマスがふっと立ち寄る画家と一緒にいる女も、トーマスとの関係も曖昧ではっきりと示されていない。AMGで調べてみると、いちおうJaneやPatriciaという名前はついてるようだが。正確にはトーマスの友人のロンくらいか。モデルたちにも名前はない。ついでにまだ駆け出しだったジェーン・バーキンが出てるというんだけど、たぶん二人組みのモデル志願の女の子だよな。ちがうか? とにかくトーマスはanonymousな環境に置かれていること。自分の撮った写真の中の殺人事件にまきこまれたトーマスが迷いこんだライブハウスの凍りついたような観客たち。をっ、このライブハウスのシーンは必見! な、なんとヤードバーズだぜい!って知らないか。ジミー・ペイジだぞ(可愛い!)、ジェフ・ベックだぞ。ジェフ・ベックはやっぱりギターを叩き壊すのだ。その壊れたギターにいきなり反応する観客たち。その壊れたギターのネックを手にライブハウスから逃げ出して表に出たとたんに、そのギターを捨ててしまうのだ。
 蛇足ながら、スタジオやライブハウス、それからそのあとのマリファナパーティーと、60年代後半のファッションがくさくくさく漂うのだ。ハダカなんてのも、いま見るとアホくさいのですが。ついでにこの際だから書いてしまうと、つくり過ぎたシーンってのがまったくなくて、とか言いながら、かなり凝ってたりするんだけれど、いわゆる見せるためだけのあざといシーンってのがなくて、そのようなシーンにとり囲まれているいまの映画からしてみると非常に退屈きわまりない。はじめに書いたように、何がどういいんだか、説明に困るんですワ。
 そして最初と最後に出てくる顔を白く塗りつぶした集団にいたっては、名前どころか顔さえも否定されているらしい。そのような人間たちの中におきざりにされてしまったとでも言ってもいいだろ。ついにはトーマスも連中と同じように見えないテニスのボールを投げ、目で追い、その音まで聞こえてくるのだった。

BLOWUP
監督 ミケランジェロ・アントニオーニ
製作 カルロ・ポンティ
原作 ジュリオ・コルタザール
脚本 ミケランジェロ・アントニオーニ / トニーノ・グエッラ / エドワード・ボンド
撮影 カルロ・ディ・パルマ
音楽 ハービー・ハンコック
出演 デヴィッド・ヘミングス / ヴァネッサ・レッドグレーヴ / サラ・マイルズ / ジェーン・バーキン 
ジミー・ペイジ ジェフ・ベック

↑投票ボタン



2003年09月25日(木)
 ≪   ≫   NEW   INDEX   アイウエオ順INDEX   MAIL   HOME 


エンピツ投票ボタン↑
My追加