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 ベルナール・ラップ『趣味の問題』 (2000 仏) ★★

 ニコラ(ジャン=ピエール・ロリ)が、何らかの犯罪を犯した、その犯罪者の尋問や精神分析といった角度から、この事件というか、一件を見ていくという、ある種の額縁映画。額縁映画がどうとかは「趣味の問題」にはちがいないだろうけれど、この映画の額縁構造は完全に失敗っだたなと思う。
 ブルジョアのフレデリック(ベルナール・ジロドー)がある日、偶然ニコラと出会い、彼を自分の味見役として雇い入れる。フレデリックのニコラに対する要求は、味見役からどんどんエスカレートして行き、自分の分身にまで育て上げようとする。もちろんニコラの方もそれにこたえ、ブルジョア世界を知り、かつて自分が位置していた世界も、そして恋人までも失っていく。それでもなおエスカレートしていくニコラへの要求の結末は
 書かなくてもわかるだろ。ここで最初に書いたように、額縁はつまらない。見えてしまってるからな。確かに最近のサスペンスものは、あらかじめ犯人がわかっていて、その犯行にいたる心理描写に重きをおいたものが多いのだけれど、この映画で、そのほうが興味深かったかというとそうでもないんだね。
 ごくごくつまらない平凡な結論に収束してしまったなという感じが強いわけで、ニコラ自身が単に上昇指向なただの人間にしか描かれようとしていない、ニコラも異常だったのだなどとこれっぽっちも描く意志なしだね。あくまで異常なのはフレデリックの方で、ニコラにはむしろ情状酌量の余地があるなんて描かれかたもされてるわけだね。それが恋人の存在でもあるわけ。
 人間が他者に自分を移入して行こうとするときに、そこには逆転現象が起こる可能性もあるわけだけれど、ここではフレデリック>ニコラという主従関係は徹底的に守られている。その関係が覆されそうにもないというのは、繰り返し挿入される額縁部分でどんどん明らかになって行く。ね、これってつまらんでしょ。
 そうして描かれるべき人間はフレデリックの方であるのに、額縁が邪魔をする。ニコラという人間を追いかけてみても興味深い点はなんらないはずなのに、額縁が視点をニコラの方に引き戻していく。
 異常なら異常でいいじゃないか。フレデリックからニコラへのホモセクシャル的な一面もにおってきてもいいはずなのに、さらにはサディスティックな面は少しはにおってはくるのだが、性的な部分は避けられ、ノーマルな男と女の関係に引き戻されるべきだと。
 はたしてニコラの精神なんてものは崩壊していってたのか。ボクには到底そうとは思えないね。崩壊しているというなら最初から崩壊していたわけで、ニコラに自己というものは最初からなかった。あったようには描かれてなかったぞ。だからそこに他者が入り込んでこようが逆転なんてことは起こりようもないのだ。強烈な自己をもっていたのはむしろフレデリックの方で、フレデリックのほうがどんどん崩壊していってたのに。
 こんなおめでたい結末見たさにフランス映画見てるわけじゃござんせんヨ。
 蛇足ですが、これグルメ映画だと思って見たんだよぉ。その割にはいきなりの厨房シーンでの野菜の切り方の下手さにはあきれたね。ぜんぜん、腹が減ってこないで、立ってきたのだった。

UNE AFFAIRE DE GOUT
監督 ベルナール・ラップ
原作 フィリップ・バラン
脚本 ベルナール・ラップ / ジル・トーラン
撮影 ジェラール・ド・バティスタ
美術 フランソワ・コメ
衣装 マルティーヌ・ラバン
音楽 ジャン=フィリップ・グード
出演 ジャン=ピエール・ロリ / ベルナール・ジロドー / フロランス・トマサン / シャルル・ベルリング / アルチュス・ド・パンゲルン / ジャン=ピエール・レオ

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2003年10月04日(土)
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