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 デレク・ジャーマン『ザ・ガーデン』 (1990 日, 英, 独) ★★★★★

 この映画のロケ地になったというダンジェネスはロンドンから南へ車で2時間ほど行ったドーバー海峡に面したところらしい。そこにデレク・ジャーマン自身の家があって、《ザ・ガーデン》というのはまず第一に彼の家の庭。そして、その庭の向こうには、一方にドーバー海峡が、反対側には荒れた土地が広がっていて、そして原子力発電所がある。この映画のプロダクト・ノートにも書かれているように、ロケならそのロケの何日間からのランドスケープ(景色)を選ばされるが、自分の家からだと景色を選ぶことができるという。つまり、これはデレク・ジャーマンにとっての風景論として映し出されている。なんて書いたらさ、荒涼な自然があって、そして原発。とすると、この映画は環境保護の映画か、と思うでしょ。ん?思わんか(笑)
 《ザ・ガーデン》のもう一つの意味は、《ヘブン》であり、《ヘブン》は《パラダイス》という意味があって、《パラダイス》は《ガーデン》という意味を持っている、と、ジャーマンが語っているように、つまりは《庭》=《薗》ということ。
 ボクは《ガーデン》と《デレク・ジャーマン》とから、ヒエロニムス・ボシュを連想してしまったんだけど、なんか赤い服を着たのが何人かで大きな岩をひきずってくるシーンがあったんだけど、あ、やっぱりなって思ってしまった。違うかもしれんけどな(笑)
 さて、この映画はいったい何なんだと言われれば、デレク・ジャーマンの家の庭を背景にしたキリストの受難劇だと言い切ってしまいましょう。ぽんとそう開き直って見やんとわけわからんしねぇ。そうして見ると、キリストの受難劇を自分自身に投影してみるとこうなりましたって、一見、複雑なのが単純になって、わかりやすくておもしろい。だから、キリストもゲイであって当然なのです。キリストが実はゲイであったなどと貶めようなんていうのは論外。そんなのはデレク・ジャーマンの映画をいくつか見ていたら当たり前じゃん。さすがにマリアはティルダ・スウィントンで女だったけど、マグダラのマリアもゲイにしてしまっているのだ。
 まともな映画じゃないですよー。言ってみれば映像詩とでも言うんでしょう。当然、こんなのもありです。こういう類の映画を見ていて思うのは、例えばダリの絵を見てすげぇ〜〜〜と思うのと同じなんだなと、なんで鉄砲の先から虎が飛び出てきてるんだなんて言わないでしょ。そこに描かれたものをそのままに受けとろうと、時にはこれひょっとしてこういうことのメタファーなんかとか勘ぐってみたりもするけれど、受けとることに精いっぱいで、そんなことはボクらにとってはどうでもよくて、評論家にまかせておけば適当なことをほざいてくれる。それをボクらは、ふんふんなるほどと思うもよし、バァ〜カとせせら笑ってればいいのね。それとほんと同じだと思う。わかりきった映画ばっかり見てんと、次から次へどどーーっと出てくるイメージを、ノーガードで受け入れていくのってほんと快感だよ。小賢しい理屈なんかほっといて。原発から荒野を通って延びてくる高圧線の下をキリストが歩いている、それだけで十分。キリストの受難劇?おぼろげに知ってるけれど、そんなもんクリスチャンでもないボクが知ってるわけないやん。それでも「白いローブを纏ってるだけでキリストだとわかる」、掌に穴が開いている、それだけで十分。ラストなんて痺れるって。
 をっと、書き忘れるところだった。サイモン・フィッシャー・ターナーの音もすごくいいのだ。単純なんだけど、ふっとピンク・フロイドの『炎』のジャケを思い浮かべてたりもしてた。この音にふわーっと包まれて、《ザ・ガーデン》つまり、演技している人も含めた景色が目に入ってくる。極上の快感。


The Garden
製作総指揮 アラン・フォンテン / 浅井隆 / ダグモア・ベンケ
製作 ジェームズ・マッケイ
監督 デレク・ジャーマン
撮影 クリストファー・ヒューズ
音楽 サイモン・フィッシャー・ターナー
出演 ロジャー・クック / ティルダ・スウィントン / スペンサー・リー / ケヴィン・コリンズ / マイケル・ガフ

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2003年11月15日(土)
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