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■ ミヒャエル･ハネケ『ピアニスト』 (2001 仏, オーストリア) ★★★★★
 これなぁ、★いくつつけようかすごく迷う。この映画が好きなのか、というと、そう好きだというわけではないのだけれど、がつーんと殴られたというような衝撃度という点では群を抜いてしまってるのだよ。
原作のエルフリーデ･イェリネクは、ボクは全然知らなかったけれど、1998年ドイツ最高の文学賞ビューヒナー賞を受賞しているっていうから、いま、ドイツでトップを走ってる作家でしょ。そして「父の重病と死、母の要求過多の教育志向のため、精神科医のセラピーを受けた」(オフィシャルサイト)そうで、エリカ(イザベル･ユペール)、そして母親(アニー･ジラルド)に、自らを投影させているのは明らか。
出てくる人間は主にこの２人に、エリカにからむワルター(ブノワ･マジメル)の３人だけと言ってしまって十分なわけだけれど、この３人がそろいもそろって異常、を通り越して病気。特に女２人、それぞれの病気の加減は、イェリネクの原作によるところが大きいのだけれど、怖いんだよねぇ。ホラー映画の怖さなんて、この怖さの前には屁みたいなもんよ。『カルネ』も怖かったし、なんでフランスってのはこんな怖い映画つくれるんだろ。その怖さゆえに、フランス映画好きなんだけどな(-.-;)
上のチラシのトイレシーンも思いきりエッチ臭くて、それでもって怖いよなぁ。いや、とにかく息つくところがないのだよ。なかでもラストはとにかく怖い。血がどばっ！とか、首が飛ぶなんてのじゃないよ。不気味なんだよ。そして無音のエンドロールだろ。ふつうな、『ピアニスト』なんてタイトルだったら、どんなにしろ、ピアノが流れて当然だけど、無音。しばらく立ち上がれなくさせてしまう怖さがある。この決着の持って行き方は、１シーン１シーンごとに、こうなるだろうっていう予想がことごとく外されて、何とも言えない怖さを残した、人によっては後味が悪いととるかもしれないが。
もうひとつ怖いシーン。エリカは、国立ウィーン音楽院のピアノ教師という設定で50になるか、ならないかってところ。この女がバスルームでひとり股間をカミソリで自傷するシーン。リストカットってのじゃなくて、マンカットだぞ。このシーンの意味って、わかりにくくて、エリカはすでに閉経してるんじゃないかって書いてる人もいたけれど、ボクはそうじゃなくて、生理がまったくなかったんじゃないかってとってしまった。つまり生理がない代償ってのもおかしいけれど、自傷によって生理あるかのように振舞っている、と解釈したんだけれど。バスタブの縁に股間からたらっと流れた血ね、スプラッターなんか及びもつかないくらいリアル。その血をシャワーかけて洗い流すのだが、このリアルさってのはいったい何？
この映画の凄さ、怖さってのは、まず一番にハネケ監督のリアリズムで、これはもう何と言ったらいいかわからない。イェリネクの原作もそうなんだろうけれど、ハネケ監督の、観るものを拒絶してしまう、跳ねのける演出の凄さといったらいいか。そこへ、もうこの人しかいないというくらいのイザベル･ユペールの能面。能面であるから変わらないで当たり前なんだけれど、それが変わるから。あ、なんかけったいなこと言い出してる(-。-;) ガラスの破片を入れに行くときにしばらく背中が映される。背中能面ってか、背中の演技が凄いの。とにかく、イザベル･ユペールとアニー･ジラルド、この２人の病理の女の描き方自体が病的だな。なんか監督と三つ巴で病気やってるとしか思えないくらいで、ブノワ･マジメルがいなかったらぶっこわれてしまってんじゃなかろうかね。
ボクはクラシックはさっぱりだからどうしようもないのだけれど、ショパンがどうだってわかる人にはさらに凄さ･怖さ倍増かもしれません。
La Pianiste
監督･ 脚本 ミヒャエル･ハネケ
製作総指揮 イヴォン･クレン / クリスティーヌ･ゴズラン / マイケル･カッツ
原作 エルフリーデ･イェリネク
撮影 クリスチャン･ベルジェ
出演 イザベル･ユペール / ブノワ･マジメル / アニー･ジラルド / アンナ･シガレヴィッチ / スザンヌ･ロタール / ウド･ザメル
監督･脚本 イザベル･コヘット
製作 エステル･ガルシア / ゴードン･マクレナン / アウグスティン･アルモドバル / ペドロ･アルモドバル / オグデン･ギャヴァンスキー
撮影 ジャン＝クロード･ラリュー
出演 サラ･ポーリー / スコット･スピードマン / デボラ･ハリー / マーク･ラファロ / レオノール･ワトリング / アマンダ･プラマー / ジュリアン･リッチングス / マリア･デ･メディロス / アルフレッド･モリナ
2003年11月27日(木)
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