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 黒沢清『アカルイミライ』 (2002 日) ★★★★☆

 この映画って不思議なことに、不思議でもなんでもないんですけど、女優が出てこない。あ、もちろん女優は出てきますよ。ただし弁護士とかのちょい役だけ。もっぱら、藤竜也と浅野忠信の有田親子、そしてオダギリジョーの3人だけ。舞台挨拶なんかも、黒沢監督とこの3人で回っていたらしい。言うてみれば、男3人の世代をめぐるむさくるしい映画なんだけれど、ここに忘れてもらっては困るこの映画一番の主役、それがクラゲ。あの優雅な水中での姿態を見よ。これぞ、まさに女優であります。
 話の筋なんてのはすっとばしておいて、オダギリジョーの仁村クンと浅野忠信の有田守がアルバイトで仕事をしている会社の社長(笹野高史)が二人に、わたしゃものわかりのいいおじさんだよってな調子で1970年代のごたくを並べられるんだよね。つまり、わたしはいま偶然55だけど、70年には25でその頃、ちょうど君たちと同じ年ごろで、その頃のわたしを見せたかったななどと言うのです。これが仁村クンと有田守に殺意を抱かせることになった。妙になれなれしく、わたしはあんたら若い人たちの味方だよってね。あ、ボクも気ぃつけよぉ(笑)
 ところがこの社長と二人のからみで有田守の部屋に『サウンド・オブ・ミュージック』のLP(CDじゃない!)が何げに飾ってあったのだ。ちなみに『サウンド・オブ・ミュージック』は1965年で、まさにその社長の頃。でもどうして『サウンド・オブ・ミュージック』であって『ウエスト・サイド・ストーリー』じゃないんだろ。それはいいとして、この『サウンド・オブ・ミュージック』が、社長の家にはなく有田守の部屋にあったというのはひとつのキーのような気がしてならないんだけど。
 もういっちょ、仁村クンがかなり気がふれてふらふらしてるときに、渋谷かどっかで、団を組んでいる5,6人の連中と出会って、妹の彼氏の会社に夜襲をかけるんだけれど、この5,6人、ラストで表参道を闊歩してる。そのときのこの団のTシャツがチェ・ゲバラ。これも60年代末モノであります。黒沢監督は1955年生れだから、どこかでこういう60年代末から70年にかけての動きを羨望のまなこで見ていたのかもしれません。
 そしてこの2人の世代にがしっと対抗するのが、浅野忠信の父親役の藤竜也。これまで黒沢清ったら役所広司と言うようなもんだったけど、役所広司は浅間山荘に忙しかったのでしょう(笑) これも不思議なことに、黒沢清、藤竜也、浅野忠信というのは初めてらしい。ついでに、これはフィルムじゃなしに、デジタルビデオで撮影された。荒れなど出すのはデジタルの方がずっと楽だしね。
 それはそうと、藤竜也ってやっぱりいいねぇ。彼の良さを引きだすのにぴったりの役回りだったし、どこかに70年代の陰をひきずっているというか、役所広司だと、その陰ってのはあまり感じさせてくれないでしょ。クラゲの川を前にしたときの藤竜也の顔ってほんまよかった。屈折してるよなぁ。
 いつものことだけれど、浅野忠信の抑揚のない演技がボクは好きだな。その分、ボソボソ喋るからセリフが聞き取れないことがよくあるんだけど。その割には、浅野忠信とオダギリジョーの(映画の中での)普段での服が、あれでエエんですか? 普段からああいう服着てたら疲れへんのかと心配してしまいました。オダギリジョーって全然知らんかったけど、かっこええやん。
 仁村クンが屋根の上に上がってテレビのアンテナ外してしまうシーンがあるんだけれど、藤竜也に何をしてたと聞かれて、屋根から遠くを見てました。あそこからは見えないことがわかりました、ってセリフも印象的だったね。
 あ、クラゲ、クラゲ。余談ですが、横浜のドブ川には夏になると、むちゃくちゃたくさんのクラゲが浮いていました。もちろんこの映画に出てくる赤クラゲじゃないけど。


プロデューサー 浅井隆 / 野下はるみ / 岩瀬貞行
監督・脚本 黒沢清
撮影 柴主高秀
美術 原田恭明
衣装 北村道子
録音 郡弘道
ビジュアルエフェクト 浅野秀二
出演 オダギリジョー / 浅野忠信 / 藤竜也 / 笹野高史 / 白石マル美 / りょう / 加瀬亮 / 小山田サユリ / はなわ

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2003年12月08日(月)
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