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■ クシシュトフ・キェシロフスキー『愛に関する短いフィルム』 (1988 ポーランド) ★★★★★
がつぅ〜んと一発! 反則技の連発だよ、こんな殺生な映画はないって。 簡単に説明しておくと、ヒチコックの『裏窓』が出発点になっているのは明白で、童貞坊やトメク(グラジナ・シャポロフスカ)は望遠鏡で向いのアパートの女マグダ(オルフ・ルバシェンク)の生活を一部覗き見している。それどころか、まさにストーカーそのもので、マグダ宛の郵便は抜き取るわ、このトメク、郵便局で受け付けをやっております。顔見たさに、マグダを郵便局に来させるように、偽の通知書を入れる。それどころか、牛乳配達までやり始めて、何とかマグダとの接点を作りだそうとする。このストーカーぶりはどうよ。 と、ここでそのストーカーが是か非かを論じたら元も子もないわけで、そんなチンケなモラルってものなんてどうでもよろしい。もちろんストーカーというのは、今では立派な犯罪として成立しますが。あゝ、でもなストーカーなんて言葉が世間一般に出てきたのって、ここ10年ほどの話でしょ。かつて「夜這い」などという立派な風習があったんだよ。そのことを忘れてやせんか。なんでもかんでもストーカーってもので片づければいいってもんじゃない。 ちょっと白状しておきますと、かつてボクがまだまだうら若くて純情可憐なボクチャンだったころの話ですが、好きになった女の子がいて、夜に、といっても8時くらいだけれど、その子の家のあかりを見るためにだけ、その子の家の前をわざと通ったりしてたことがあるのね。その女の子に会って話をしたいとか、そうじゃなしに、なんらかの接点を求めていたかった。もう30年くらいになるかな。いまの時代からするととても考えられない話ですが。ようやっとのことでコクりはしたけれど、コクって1ヶ月で終わってしまった{^。^`;ニャハハ もちろんこの映画の中でのトメクの行為ってのはそんな可愛いもんではないし、相手の女マグダにしても、野菊のごとき君なりきってもんじゃないんですが、しかし、もう、たまらなくせつないねぇ〜。これってね、全編にわたって静かに流れるズビグニエフ・プレイスネルの音の効果も絶大なら、この『愛に関する〜』に限ったことでないんだけれど、キェシロフスキーの映しだす色彩、歪めた映像、影の総攻撃で、これでもか、これでもかってくらいにせつなくなるように持っていく。これってもう反則技ですよ。『トリコロール』三部作なんかの場合には、話そのものに力点がおかれていたけれど、この『愛に関する〜』では、トメクとマグダの二人を友達のおかんが覗いているなんてこわさはあるにせよ、話そのものは単純。その分、映像による吸引力の凄さって。もちろん、オルフ・ルバシェンクとグラジナ・シャポロフスカの二人にしても、ハリウッドの華やかさなんてのはなくて、ポーランド生粋の役者さん。これねぇ、トメクにデカプリオなんかぴったりのようで、かいもくサマにならんでしょ。きっと作り方が変わってしまって、デカプリオの華を見せることにやっきになって、それこそチンケなモラル云々に走ってしまうのがオチってところ。オルフ・ルバシェンクに替われるのって、ちょっと思いつかないなぁ。 まぁ、そんあことはどうでもいいとして、キェシロフスキーの力技にねじ伏せられた一本。きっとあしたも『殺人〜』でやられるんだろうな。 ※TV『デカローグ』第6話からの、映画化です。
「あれは久しぶりに聞く言葉だったわ」 「−−愛してる」 「愛なんかないわ」 「ある」 「愛なんか……」
A SHORT FILM ABOUT LOVE 監督 クシシュトフ・キエシロフスキー 製作総指揮 リシャルト・フルコフスキ 脚本 クシシュトフ・キエシロフスキー / クシシュトフ・ピエシェヴィッチ 撮影 ヴィトルド・アダメク 音楽 ズビグニエフ・プレイスネル 出演 オルフ・ルバシェンク / グラジナ・シャポロフスカ / ステファニア・イバンスカ
ひとつ前 黒沢清『アカルイミライ』 (2002 日) ★★★★☆
2003年12月09日(火)
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