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 デレク・ジャーマン『ジュビリー / 聖なる年』 (1978 英) ★★★★

 1578年エリザベス1世(ジェニー・ラナカー)は天使エアリアル(イアン・チャールソン)に導かれて未来へタイムスリップする。タイムスリップ世界は、暴力・破壊が充満し、荒廃しきっていた。
 この映画がつくられた1978年というのは、ロンドンではパンクロック全盛。あたかもその時代にタイムスリップしてきたような。ここに登場するレディース(?)「神の娘たち」のメンバーの一人、放火大好き女マッドがトーヤ・ウィルコックス。彼女は『テンペスト』にも出ているが、キング・クリムゾンのロバート・フィリップの嫁さん。そしてパンクの中心的なバンドだったアダム & ジ・アンツのボーカル。そのアダム & ジ・アンツのリーダー=アダム・アントはキッドとして出演。それからアミルのジョーダンもパンク・ロッカー。映画の中ではアダム & ジ・アンツのライブシーンも使われている。パンク・ロックのファンにはちょっとたまらない映画かも。ボクはっていうと、いまひとつパンクには乗れなかったなぁ。だからそう思い入れがあるわけでないんだけど、この映画がパンク・ムーブメントのベクトルと合致していた。
 アミル、マッドのほかにこのレディースのメンバーは色情狂のクレイブス(リトル・ネル)、それからビブ、カオス。カオスという女の存在が頬にCHAOSとタットゥーしてあるわりにいまいち希薄だったが。ここまでが女。さらにその仲間として、エンジェルとスフィンクスはゲイ。ここにゲイが入っているのは、デレク・ジャーマンがゲイだったこともあるし、男と女というセックスが崩れてしまった象徴。
 そしてこの一団の首領格のボッドはジェニー・ラナカーの一人二役。つまりエリザベス1世の生まれ変わりで、エリザベス1世がタイムスリップして未来の自分を見るという構造。「ジュビリー」というのは、2002年がゴールデン・ジュビリー(女王戴冠50周年記念)だったように〜周年記念。1578年から1978年にタイムスリップしたのだから、400周年記念ってところか。


 デレク・ジャーマンってのはとらえどころが無いと言えば無いのだけれど、ごく初期の作品だからか、ストーリーってのもあって、これが逆にあとのほうのジャーマンの作品を見ていると混乱してしまった。つまり、音楽界を牛耳るギンツ(リチャード・オブライエン)に、キッドを売り込み、その一方でアミルでコンテストの優勝を目指しているが、その最大の敵ラウンジ・リザートを殺ってしまう。ところがひょんなことから、警官に仲間のエンジェル、スフィンクスそしてキッドまでもが殺されてしまい。その報復に立ち上がる、というような筋立てなんだけれど、このストーリーってのはあまり褒められたもんじゃないなぁ。そんなことより、そのストーリーを組み立てるひとつひとつのアイテム、例えば、造花の庭だとか、荒廃した街だとか、ギンツのクラブでのパーティーだとか、そんなほうがずっとずっとおもしろい。パーティーにはヤクにいかれたキリストまで現れる。
 正直なところ、この映画見ながら、ジャーマンだからってあんまりストーリーなんて追って見てなかったんよ。さて、このれびゅー書きましょかとなって、自分の頭の中で混乱していて、ストーリーがあるのにいまいちようわからん。だからもう一度見直してた。それでもこれ書くのにひどく手間取ってとりとめもない。やっぱり、このデレク・ジャーマンの映画ってのはストーリーで運ぶ映画じゃなくて、イメージを積み重ねていく映画だったのだ。
 世界史的には、ベトナム戦争以後、世界の体制が大きく変貌しようとする時代で、大英帝国が陥ち込んでいく。10年後に『ラスト・オブ・イングランド』となるのだけれど、大英帝国、そして世界への諦めと憎悪をデレク・ジャーマンは描き出そうとしたんじゃないのだろうか。
 ギンツの邸宅で「神の娘たち」が集まっているところから、「じゃあな」とゴッドならぬボッドが去っていく。パッと画面が切り替わるとエリザベス1世。この切り替えがもっとも象徴的だった。

Jubilee
監督 デレク・ジャーマン
脚本 デレク・ジャーマン / ジェームズ・ウェイリー
撮影 ピーター・ミドルトン
音楽 ブライアン・イーノ / スージー・ピンス
出演 ジェニー・ラナカー / ジョーダン / リトル・ネル / トーヤ・ウィルコックス / アダム・アント / リチャード・オブライエン / イアン・チャールソン / オーランド / ヨルダン / デイヴィッド・ホートン

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2004年01月16日(金)
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