あいうえお順INDEX 



 クシシュトフ・キェシロフスキー『デカローグ 2 ― ある選択に関する物語』 (1988 ポーランド) ★★★★★



 第2話『ある選択に関する物語 ― あなたはあなたの神、主の名をみだりに唱えてはならない』
 ビデオのパッケージに《不倫》とテーマが示されてんだけれど、う〜ん、不倫がからむといえばからんでるんだけれど、その不倫自体さして問題になってるわけでもない。
 簡単にストーリーを書いておくと、ドロタ(クリスティナ・ヤンダ)はもはや絶望的な病気に冒されている夫アンジェイ(オルギェルト・ウカシュヴィッチ)を抱えている。夫婦ともに、まだ40になるかならないかというのに。ところがドロタは妊娠してしまう。しかもその父親はアンジェイじゃなく、バイオリニストでもあるドロタの音楽仲間であるらしい。だからテーマが《不倫》となるらしんだけどな。
 ドロタは主治医である医者(アレクサンデル・バルディーニ)に、あとどれくらいの命なのか宣言してほしいと迫る。そのドロタの真意は、もし生き続けるとすればおなかの子どもは中絶してしまわないといけない。が、逆にあと数ヶ月というのなら、そのまま出産したいと。こうして書いてしまうと、いかにもドロタという女が、夫が明日死ぬかもというときに他の男の子どもを身ごもるなんて、そして夫は生きるのか、死ぬのかというのはあまりに身勝手な自己中女ととられても仕方がない。でもな、キェシロフスキーはそのレベルの問題をテーマにしようとしてるのでないように見てとれる。

《おまえは間違ったことをしたという声にたえず悩まされているとすれば、正しいことをやろうと思えばできたということを知っているという意味だ。基準というか、価値の尺度を持っているのだ。これこそ、私の考える、何が正しく、何が間違っているという感覚を私たちが持っていることを証明するものであって、私たちは、自分自身の内面の基準を定められる立場にあるのだ。》(『キェシロフスキーの世界』)

 何が正しく、何が間違っているかという観客の要望に、正義の味方然とした映画監督は答えてしまいがちだが、キェシロフスキーは見る側に《自分自身の内面の基準》を求め、委ねる。それが自由なのだ、と。
 だから、この『ある選択に関する物語』でいちばん見ごたえのあったのは、ドロタ自身のせめぎ合い、それにもましてドロタと医者のせめぎ合いなのだ。
 ついに医者はドロタに屈してしまう。そこで「音楽家なんですね、今度聞かせて下さい」と言う。その瞬間にずしりと重くのしかかっていた荷物をやっとのことで置くことができたというのに、最後の最後にどんでん返しが待っているのだ。ここに入っていくところのマクロのカメラワークと音楽の流れがたまらんのな。そして、また置き去りにされてしまうのだった。
 それにしてもなんともせつないワ。

Dekalog
監督 クシシュトフ・キェシロフスキー
脚本 クシシュトフ・キェシロフスキー / クシシュトフ・ピエシェヴィッチ
撮影 エドワルド・クォシンスキ
音楽 ズビグニエフ・プレイスネル
美術 Halina Dobrowolska
出演 クリスティナ・ヤンダ / アレクサンデル・バルディーニ / オルギェルト・ウカシュヴィッチ / アルテュル・バルシス

↑投票ボタン


ひとつ前 クシシュトフ・キェシロフスキー『デカローグ 1 ― ある運命に関する物語』 (1988 ポーランド) ★★★★☆


2004年01月19日(月)
 ≪   ≫   NEW   INDEX   アイウエオ順INDEX   MAIL   HOME 


エンピツ投票ボタン↑
My追加