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 クシシュトフ・キェシロフスキー『デカローグ5 ― ある殺人に関する物語』 (1988 ポーランド) ★★★★★



 第5話『あなたはなにものをも殺してはならない』
 これは少し前にまごれびゅにもアップした『殺人に関する短いフィルム』のテレビ版。この『デカローグ』のシリーズを撮っているときに、テレビ局からの予算だけでは足りなくて、芸術文化省にかけあって製作費を捻出したという。そのとき、この第5話の映画版を作ることを条件として出したのだけれど、芸術文化省が選んだのはこのつぎの第6話で『愛に関する短いフィルム』。結局2本が映画版とテレビ版として製作された。2つのバージョンを製作する予定で、これは映画版に、これはテレビ版にと振り分けていたらしいが、途中からごちゃごちゃになってしまったという。

 当然のことながら、両者を比較してしまうのだが、ボクはこの『ある殺人に関する物語』についてはテレビ版のほうが好き。こっちは★5つ付けることができた。映画版では「カメラの視線の冷酷無比きわまりなさに、★5つつける元気など根こそぎもってかれた」んだけれど、テレビ版では、確かに冷酷なことは冷酷であっても少しはマシ。その理由で、★の数がボクとは逆になる人もいるだろうけれど、あくまで★は好きかどうかのボクの判断なので悪しからず。初めに映画版を見て、2度目にテレビ版を見るのでは、1度見ているという妙な安心感なんてのもあるのは確か。しかしそれ以上に、
《映画館に行く場合、それがどんな映画館であれ、必ず意を決して行く。》(河出書房新社『キェシロフスキーの世界』)
つまり「殺人」シーンが描かれるというのは覚悟の上で見に行くのに対して、チャンネルを替えたら「殺人」が映しだされていたというのは大違いで、やっぱりテレビ版では殺人シーンは押さえられていた。気の弱い(?)ボクにはテレビ版で十分怖かった(-.-;) ヤツェック(ミロスワフ・バカ)が運転手(ヤン・テサシ ←第4話にもちらっと登場)を殺すシーンも、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』の元ネタとなった絞首刑のシーンもかなりあっさり味に仕上がってた。それでもやっぱり、きついことはきついですけど....
 それともうひとつ、時間の枠の制約によるのだろうが、前半のヤツェックが殺人を犯すまでの、ヤツェック、タクシー・ドライバー、新人弁護士(クシシュトフ・グロビシュ)の、まだ顔を突きあわすことの無かった三人の三者三様の事情っていうか、無関係であった生活を描き出すテンポがテレビ版のほうが単純でよかったように思う。この点に関しても、映画版のほうが殺人に至るまでの重苦しい雰囲気が滲み出ていてよかったとも言えないこともないけれど、ボクはテレビ版のほうが好き。
 映画版で増強された死刑以後の弁護士の苦悩、葛藤がカットされていて、テレビ版では少し判りづらくなったのも確か。でもそれも『デカローグ』全体の見る側に判断を委ねることからするとテレビ版のほうがよかったとボクは思う。
 ちなみにカメラは『二人のベロニカ』、『トリコロール/青の愛』のスワヴォミール・イジャック。なるほどね。

Dekalog
監督 クシシュトフ・キェシロフスキー
脚本 クシシュトフ・キェシロフスキー / クシシュトフ・ピエシェヴィッチ
撮影 スワヴォミール・イジャック
音楽 ズビグニエフ・プレイスネル
出演 ミロスワフ・バカ / クシシュトフ・グロビシュ / ヤン・テサシ

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2004年01月24日(土)
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