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 クシシュトフ・キェシロフスキー『デカローグ 8 ― ある過去に関する物語』 (1988 ポーランド) ★★★★☆




 第8話『あなたは隣人について、偽証してはならない』
 ゾフィア(マリア・コシャルスカ)は大学の倫理学の教授。60くらいの婆ちゃん教授ですが、学生が問題を提議し、それを全体で討論していくスタイルの講義は、かなり学生の間では評判がよろしいようで、大教室でありながら満席。ほんまかいな、倫理学だぞぉ。出席だけとって遊んでるどっかの大学生どもとは大違い、ポーランドの大学生ってまじめなんかねぇ。かのアルテュル・バルシス君も真剣に講義に取り組んでおります。
 その日、一人の女子学生から定義された問題は、とある女性が夫以外の子供を身ごもってしまった、しかもその夫はほとんど絶望的な死のふちにあると、ん?これは第2話ですねぇ。これに対してゾフィアは、まずもって子供の命が大切だと、そしてその事実は知っていると答えるのでした。さて、このゾフィアの答えに、たまたま聴講に入っていたアメリカの倫理学者エルジュビェタ(テレサ・マシェスカ)が、別の問題を提議します。
 それは、第2次大戦中にナチスの迫害から逃れ続けていた少女を、カトリックの教義に反するからという理由で匿うことを拒んだ夫婦の問題だったのです。実は、その少女こそエルジュビェタで、その匿うことができなかったのはゾフィアだったのです。
 講義終了後、初めてお互いがその当事者だったことを打ち明けあうシーンはちょっとした緊張感。そして二人は過去に遡っていきます。ゾフィアにとっては40年間の間、過去における自分の罪を背負って生きてきたという障壁が残ってはいるものの、エルジュビェタにはその過去を許す許さないなどの問題はとうに超越されてしまっていたはず。この逆向きのベクトルが交錯するところにこの話の本当のおもしろさがあるんだよね。第2話のれびゅのところで引用したキエシロフスキーのことばを二人が語りあうんだよねぇ。そんなことからもこの第8話と第2話は兄弟のような物語かもしれない。 
 そうして二人が40年間の時を越えて求めようとした答えは、かつてエルジュビェタを匿って、いわば命の恩人ともなった、いまでは仕立屋として静かに暮らす男 (タデウシュ・ロムニキ)が示してしまいます。それは下のボタンにしてしまったけど、それを受けてエルジュビェタが「そうね」とだけ答えたのと同じだったんじゃないのかな。

Dekalog 8
監督 クシシュトフ・キエシロフスキー
製作総指揮 リシャルト・フルコフスキ
脚本 クシシュトフ・キエシロフスキー / クシシュトフ・ピエシェヴィッチ
撮影 アンジェイ・ヤロシェヴィッチ
音楽 ズビグニエフ・プレイスネル
出演 マリア・コシュチャウコフスカ / テレサ・マルチェフスカ / タデウュ・ウォムニッキ / アルテュル・バルシス


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2004年01月31日(土)
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