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 クシシュトフ・キェシロフスキー『デカローグ 9 ― ある孤独に関する物語』 (1988 ポーランド) ★★★★☆



 第8話『あなたは他人の妻を取ってはならない』
 デカローグのシリーズでは毎回カメラが代わっているんだけれど、この第9話と第3話『あるクリスマス・イヴ〜』は同じピョートル・ソボチンスキ。『トリコロール/赤の愛』もそう。彼がカメラをとると、よりキエシロフスキーっぽくなるといか、映像で納得させられてしまうところが大きくなる。演技だけでなく、スクリーン全体から語りかけてくるように感じてしまう。スクリーンだけでなく、ズビグニエフ・プレイスネルの音楽によって、映画全体でもってずっぽりキェシロフスキーの世界に包囲されてしまう。

 さて性的不能になった、もう回復の見込みはない、と宣言されたらどうする? ふわぁ〜、人生もうおしまいだぁぁ。医者はまだ奥さんは若いし子どももいないんだから、離婚して彼女に女の悦びを与えてやれと言う。が、がぁ〜〜ん、目の前、真っ暗。別れないまでも、他に愛人をつくっていいとは言っても、いざ愛人ができたとなると。ところが女の方はしたたかなもので、そう言われるまでもなく若い愛人がいたのだった。おたがいのサイドからの心理的な変遷を追いかけていくタッチがすごいの。
 医者である夫の患者に若い娘がいて、この不能の夫がこの若い娘に目覚めてしまって、治らないといわれた不能が....うっ、ず、ずびばせん(-.-;) 勝手に話を作ってしまいました。これじゃ安モンのドラマです。その若い娘は声楽家であるのに、手術することによってもう歌えなくなる可能性がある。つまり歌うことが不能になる。それでも娘は不能になることを選ぼうとする。もうブッデンマイヤーの歌は歌えなくなる。が、医者の夫は、彼女がブッデンマイヤーを歌うのを聞きたい。
 この異なる不能を重ね合わせるというのは絶妙のシナリオだよね。そうしてミステリータッチに二人の心の動きが早いテンポで描き出されていくと、もう完全にキエシロフスキーの世界にとりこまれてしまっている。この物語でもアルテュル・バルシス君は奇妙なキー・パーソンとなって登場。不吉なような、考えようによっては、道を指し示す黒子のような存在となって。
 ところで『ふたりのベロニカ』、『トリコロール/青の愛』にも名前が出てくる16世紀の音楽家ブッデンマイヤーとは。。。。。ほら、ここまで見てくると、もう耳をついて離れないでしょ

Dekalog 9
監督 クシシュトフ・キエシロフスキー
製作総指揮 リシャルト・フルコフスキ
脚本 クシシュトフ・キエシロフスキー / クシシュトフ・ピエシェヴィッチ
撮影 ピョートル・ソボチンスキ
音楽 ズビグニエフ・プレイスネル
出演 ピョートル・マハチツァ / エヴァ・ブウァシュチェク / タデウュ・ウォムニッキ / アルテュル・バルシス


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2004年02月02日(月)
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